一生分の笑顔

絵描きのS君と知りあったのは半年程前、ハーブ&カフェ二見さんでのハーブ講座に参加した時でした。

数名の女性参加者の中で男性は彼一人

帽子を目深に被り、伏せ目がちに目だだないようにしているのが逆に私には気になって、自己紹介の時に本の挿絵を描いているというので尚更印象に残っていました。

再会したのは数ヶ月後、場所はやはり二見さん。

その後、二見さんで、彼は自分の作品(ポストカードや木製のカード立て)を委託販売するようになって、私は彼の作品をその時初めて目にしたのです。

ちょうどその頃私は、弟夫婦が家を新築するというので、何かお祝いをと思っていました。

そうだ、お祝いに彼に絵を描いて貰おう。どうしてそう思ったのか、直感だったのかなんだったのかそう思い頼んだところ彼は、

「いや〜注文で書くなんて無理っす(^^;;」

などと、困ったような、はにかんだような、見ようによっては泣き笑いのような顔で言っていたのですが、

私はどうしても彼の描いた大きな作品が見たくなり半ば強引に約束を取り付けました。

「ご希望の絵の感じはどんな風ですか?」

「あなたの感じたまま好きなように描いて!あなたが描きたい絵を見たいの。」

「えーっ?」

そんな会話を何度か繰り返したでしょうかw

その後も二見さんでバイトしている彼と顔をあわせるたび、絵の進み具合なんかを聞いて、完成を心待ちにしていました。

そしてさらに数ヶ月、昨日初めて完成した絵と対面できました。

それは、沢山の花々の中に、母子のアナグマが庇い合うように寄り添っている絵でした。

何故だろう?胸が熱くなり、ああ、やっぱり彼に頼んで良かった。そう思いました。

彼は私が一番大切にしているものを、ちゃんと感じてくれててこんなにもストレートに暖かいタッチで描いてくれたんだと思いました。

愛おしそうに子熊を見つめる母熊の眼差し。心地よさそうな子熊の表情。

絵を見ながら私の心は、3人の子供達の幼い頃に戻っています。

柔らかくて、儚くい小さな命。

満足そうにお乳を含む小さな唇

時折見せる溢れそうな笑顔

赤ちゃんて、親になった人に一生分のな笑顔を見せてくれる。

喋れない時に生まれてきた喜びや感謝の全てを伝えてくれている。

だから、親はどんな事があっても子供を守りたいと思う。なんの見返りも言葉もいらない。だって赤ちゃんの時にそれは一生分貰ってるから。

あの頃のS君は、寂しそうで、私と目を合わせるのも辛そうだったけど、この絵を完成させた彼は別人のように素敵な笑顔を見せてくれました。

そうか、私は絵と一緒に彼のこの笑顔が見たかったんだ。やっとわかった気がしました。

あの家にぴったりの絵だね。と言った弟の笑顔がS君の笑顔と息子の笑顔と重なる。

幸せとはこんな刹那な瞬間を感じる事かもしれない。

ありがとうS君。

ありがとう子供たち。

ありがとう全ての子供をはぐぐむ大人達。